マネジメントでよくある失敗と信頼されるための要素
「良い上司」と聞いてどのような上司像が思い浮かびますか?
・ランチによく連れて行ってくれる
・いつでも相談に乗ってくれる
・休日でも気さくに付き合ってくれる
など、さまざまな「理想の上司像」が挙げられるのではないでしょうか。
これらに含まれる要素は「マネジメント」の概念に結びついています。マネジメントは、うまく行えば組織を目標達成に導いてくれますが、一歩間違えると部下の信頼を失うだけでなく組織の衰退を招きかねません。
本コラムでよくあるマネジメント失敗事例をご紹介しますので、ぜひ転ばぬ先の杖としてご活用ください。
マネジメントはなぜ重要なのか
「マネジメント」という言葉は、経営学者であるピーター・ドラッカーが発明したものです。「マネジメント」が提唱された著書『現代の経営』は、1954年に著作され1950~60年代にかけて起きたマネジメントブームの先駆けとなりました。
それから70年近くも経過した現代においてもマネジメントが重視されている背景には、ビジネス環境が目まぐるしく変化する状況のなかで従来のトップダウンのコーポレートガバナンス(企業統治)では立ち行かなくなってきていること、インターネット環境の向上などにより誰もが情報にアクセスしやすくなったことなどがあり、組織の下層を含む中間管理職のマネジメントが重要な役目を持つようになったからです。
マネジメント能力の低い上司とは?
理想的なマネジメントについて考える前に、マネジメントがうまくいっていない上司によく見られる例を確認しておきましょう。
部下とのコミュニケーションが下手
マネジメントの種類の一つに、部下のモチベーションやコンディションを管理する「人材マネジメント」があります。これができていないと傍目から見てもわかりやすいため、組織の目的を達成できないばかりか部下からも「マネジメント能力が低い」と認識され、リーダーシップはさらに低下することになってしまいます。
代表的な「部下とのコミュニケーション下手」の例としては、次の三つが挙げられます。
部下に無関心(知らない・知ろうとしない)
部下のスキルや能力、ポテンシャルを把握し、見合った業務を割り振ったり、成長を促すために敢えて少しハードルの高い目標設定を行ったりするのもマネージャーの役目ですが、そもそも部下の現状の能力を知らなければ始まりません。
知らないのであれば、まず「知らない」という事実を認識し面談などを通して知ろうと努力する必要がありますが、「知らないし、知ろうともしない」無関心な上司は、部下のモチベーションを低下させてしまいますし、部下が無理をしたりサボっていたとしても気づくことができません。
部下が悩んだり困ったりした際も、自分に関心のない上司に相談をする気にはなれないでしょう。
部下に対する関心の範囲は業務に関することばかりではなく、ある程度プライベートまで知っておくことでモチベーション管理や働きやすい環境づくりにつなげることができます。そのためには、業務時間以外にランチや飲み会などでコミュニケーションを取ることも大切です。
部下の能力・努力を評価しない
部下のスキルや能力、ポテンシャルなどに見合った業務を割り振り、目標を設定した後は業務へ取り組む姿勢や結果を確認して評価する必要があります。
部下は認められることでモチベーションが上がりますし、報酬に直結する評価の上下はそれだけでモチベーションを大きく左右します。
正当な評価を与えることが「人材マネジメント」の肝であるといっても過言ではないでしょう。もしも現状の評価制度では部下を十分に評価できないと思えば、評価制度の見直しを行う必要性も出てきます。
部下同士を比較したりひいきしたりする
部下を褒めたり叱ったりする際は、誰かとの比較ではなく個々の中でどれだけ伸びたのか、本来の実力に対して現状がどの程度まで下がっているかというように、本人の中に基準を持つことが大切です。
比較して優劣をつけ評価に差をつけたり、あからさまに接する態度を変えたりすれば、公平な上司とはいえません。チームを目標達成へ導くために必要な信頼関係を築くこともできないでしょう。
上記の三点に心当たりがある方は、コミュニケーションスキルを向上させる努力をする必要があります。
上からの指示をそのまま部下に出す
マネージャーが中間管理職の場合、上位の会議などで決定した目標や指示はチームの現状に合わせて具体的な業務や目標に落とし込むのが仕事の一つです。
会議で決まった内容や上司から言われたことをそのまま部下に指示するマネージャーは、本来行うべき「目標マネジメント」や「業務マネジメント」を行っておらず、職務怠慢であるといえるでしょう。
同様の理由から「指示内容が明確でない」マネージャーも、マネジメント能力が低いと判断できます。部下のタイプや状況によってはある程度まで裁量を多く持たせることが大切ですが、指示を受ける部下側で「何をしたら良いのかわからない」状態であれば必要な指示の粒度になっていないということです。
マネジメント能力が高い上司とは?
では、マネジメント能力が高い上司とはどんな上司なのでしょうか?ここでは、その特徴を三つにまとめました。
コミュニケーションスキルが高い
前章でお伝えしたマネジメント能力が低い上司が犯している失敗の多くは、コミュニケーションスキルが低いことに起因していました。
コミュニケーションスキルとは、言葉を伝え受け取る能力を中心に非言語によるコミュニケーションも使いながら、関係者を説得したり巻き込んだりする力を指します。
もともと高いコミュニケーションスキルを持った人もいればそうでない人もいますが、コミュニケーションスキルは訓練すれば誰でもある程度まで高めることができます。
自身のコミュニケーションスキルが十分でないと思えば、努力して身につける必要があるでしょう。
現状分析力と問題解決力がある
マネジメントを行うには常に現状分析が求められます。現状を正しく把握できていなければ、目標設定も業務改善も適切に行うことができません。
また、どんな規模の組織であれ、組織をマネジメントする中で大小さまざまな問題が頻繁に生じます。組織が抱える課題の解決や、トラブルが発生したときの収束に当たりどのように対処すべきか、その方向性を決定して指示を出すのもマネージャーの重要な仕事の一つです。
こうした能力が高ければ、さまざまな障壁を乗り超えて組織の目的を達成させることができるでしょう。
リーダーシップと意思決定力に優れている
「マネジメント」を発明したピーター・ドラッカーの定義によれば、リーダーシップとは、つき従う者がいて、目標に対して行動規範になり、最終的責任を取る存在であるといいます。
つまり、強制で従わせるのではなく信頼関係により部下が自分の意思で従い、明確な目標を示して達成のために自ら行動し、組織のメンバーの行動が引き起こした結果の責任を取るのがリーダーシップのあるリーダーだということです。
意思決定力とは、何をするか、何をやめるか、何をしないかといったさまざまな選択を決断することです。マネジメントに携わらないメンバーも業務の中で日々こうした意志決定を行いますが、マネージャーは組織全体に関わる大きな選択を行うことになります。選択した意思決定の結果に対する責任を負うのは、先にお伝えしたリーダーシップの範疇です。
マネジメントで信頼される要素
マネジメントにはさまざまな種類がありますが、どれが欠けても良いマネージャーとはいえません。そのなかで、部下の信頼を得るために特に必要な要素をピックアップしてご紹介します。
組織内の業務を理解している
まず、部下の仕事内容については精通していなくても良いので、理解していること理解しようとしていることが挙げられます。マネージャー自身がかつて担当していた業務であっても、担当者のタイプや時代が変化していることを踏まえ、まったく同じようにはいかないことを前提に現状の業務を把握しようと努める姿勢が大切です。
首尾一貫している
たとえば立ち上がったばかりの成長フェーズにある小規模な企業の場合など状況の変わりやすい組織では、リーダーの方針が180度転換されることもままあるでしょう。ただ、それについていく部下たちは大変です。
「昨日と今日で言っていることがまったく違う」
「上司自身の言っていることとやっていることがまったく違う」
などと部下に思われてしまえば、信頼関係を築くどころか不信感を持たれることになりかねません。
特に一度下した意思決定を翻す場合は、部下の理解を得られるような説明を併せて行う必要があるでしょう。
自分自身についてオープンである
信頼関係を築くには、お互いのことについて知ること・知ろうとする姿勢が欠かせません。
ただ上司が一方的に部下のことを知ろうとしても、うまくいかないケースがあります。部下のタイプによっては、根掘り葉掘り聞かれることでかえって警戒心を強めてしまうでしょう。
まずは、マネージャー自らが自分自身をさらけ出すことがカギとなります。自身の性格、目標や仕事に対する考え方などオープンに見せていきましょう。
公平・公正であること
前章でひいきをする上司について少し触れましたが、人によって態度を変えたり気分によって態度を変えたりしない上司、評価を公正に行ってくれる上司にこそ、部下はいつでも安心して相談を持ちかけたり日々の業務に取り組むことができます。
マネージャーも人間なので人の好みやその日の体調・気分の変化はあるでしょうが、そこをきちんとコントロールして公平・公正さを保つ必要があります。
まとめ
「マネジメント」は多くの要素が絡まった概念であり、単純に「褒める」「叱る」だけでは人を動かすことはできず、良いマネジメントとはいえません。
本コラムでご紹介したマネジメントの良い例・悪い例をご参考に、身の回りの上司や自身のマネジメントを照らし合わせてみるのもおすすめです。
常に「これが良いマネジメントかどうか」を振り返る習慣を身につけることが、より良いマネージャーになれる近道なのかもしれません。