マネジメントスキルを高める方法
どのような仕事に就いていてもある程度の経験を積むと部下を持つようになり、「マネジメント」を任されるようになるでしょう。
マネジメントと一口にいってもさまざまなスキルが必要とされますので、特にマネージャーになりたての方は、何をどのようにすれば良いのかわからずマネジメントスキルを伸ばすことが難しいと感じるのではないでしょうか。
ここでは、実際に現場で働くビジネスマンがマネジメントスキルを伸ばすためには何をすれば効果的なのかを考えてみましょう。
マネジメントスキルの向上は必要なのか
生まれながらにしてマネージャーだった人はいませんので、誰しも最初はマネジメントスキルの低い素人です。人によってはもともとマネジメントスキルの中のいくつかを備えていて意識せずに自然と発揮できることもありますが、多くの方はマネージャー職を務めるなかで自身のマネジメントスキル不足を感じ、スキルアップを願うようになるのではないでしょうか。
マネジメントと一口にいっても求められる役割は幅広く、さまざまなスキルが求められます。特に中間管理職は、目標達成などの短期的な成果と人材育成や業務改革といった中期的な成果が同時に求められるため、マネジメント以外のスキルも高める必要が出てきます。
自らが成長を追い求めなかった場合も、上司や会社から求められ必要に迫られてスキルアップを目指すようになるケースは多いでしょう。
マネジメントスキルの種類
マネージャーに求められるマネジメントスキルのなかで代表的なものをご紹介しましょう。
問題発見スキル・問題解決スキル
組織を目的達成に導くまで過程には大小さまざまな障害が発生します。そうした既知の問題に対処する問題解決力のほか、まだ表面化していない潜在的な問題を早い段階で察知して対策する力も求められます。
プロジェクトマネジメントスキル
マネージャーには、期限までにプロジェクトを遂行するためのプロジェクトマネジメントスキルも求められます。プロジェクトが立ち上がった際は、通常の組織マネージャーとは別にプロジェクトマネージャー(PM)が設けられるケースもあります。
プロジェクトマネジメントに必要なスキルとは、プロジェクトの目的を明確にするための上層部や他部署とのコミュニケーションスキル、プロジェクトの内容と流れを組み立てる企画立案スキル、プロジェクトの各フェーズでスケジュールと予算を調整する管理スキル、プロジェクトを推進する中で脅威となるリスクの分析スキルなどです。
意思決定スキル
マネージャーでなくても仕事をしていれば日々、意思決定の連続ですが、マネージャーは特に組織全体に関わる大きな決断を行います。
主に「何をするか」「何をやめるか」「何をしないか」を選択し決断します。各選択肢を取った際のリスクをあらかじめ把握しておき、選択した結果の責任も負います。
ファシリテーションスキル・プレゼンテーションスキル
マネージャーには、部下や上司、他部署のメンバー、取引先とさまざまな関係者と折衝する場面がたくさんあり、コミュニケーシスキル全般に高いものが要求されますが、特に大人数のメンバーの意見を引き出したりまとめたりする「ファシリテーションスキル」と、相手に要求を伝えて理解してもらい行動してもらうための「プレゼンテーションスキル」は、人の上に立つマネージャーにとって重要なスキルです。
ファシリテーションスキル
ファシリテーションとは、集団活動が円滑に行われるようにサポートすることです。
よく会議での進行役をファシリテーターとよびますが、ミーティングの場に限らずチームワークが求められる場面で全員が意欲的に参加し高いパフォーマンスを発揮できるよう、「現状分析→課題の把握→解消」のサイクルを高速で回しながら改善します。
プレゼンテーションスキル
プレゼンテーションとは、聴衆に情報を提示して理解を得ることを総称したもので、ただわかりやすく伝えるだけにとどまらず聴衆に行動を促す点が「スピーチ」との違いです。
商談やコンペのような場面での提案をプレゼンテーションとよぶことが多いですが、マネージャーに必要なプレゼンテーションスキルとは、協力してもらいたい相手に行動の結果、期待できるメリットなどを伝えて相手が自発的に行動するよう働きかける情報提供力です。
マネジメントスキルを高める方法
マネジメントスキルを高めるためには前章でご紹介したような「マネジメントに必要なスキル」と現状の自身が持つスキルの差分を洗い出し、不足スキルを身につけるのが近道でしょう。
ここでは、個別のスキルアップではなくマネジメント力全体を底上げしてくれる方法をご紹介します。
さまざまな思考法を身につける
マネージャー業務のなかで課題を解決したり企画を作成したりと、思考力を使う場面は頻繁に出てきます。インプットした知識や情報を役に立つ形でアウトプットするためにさまざまな思考法を身につけておけば、そのシーンに最適な思考法を用いることができるようになるでしょう。
ここでは、マネジメントで活用できる思考法の中から三つピックアップしてご紹介します。
ロジカルシンキング
ロジカルシンキング(logical thinking)は日本語では「論理的思考」と訳されます。情報を漏れや重複なく体系的に整理し筋道立てて矛盾なく考える手法で、一貫して筋が通っていることが特徴です。
ロジカルシンキングを身につけることで、分析力や問題解決力、提案力を向上できるようになります。
ロジカルシンキングには「帰納法」と「演繹法」があります。
・帰納法…複数の事例から共通点を見出し、結論を導く考え方
・演繹法…あるルール(前提)に物事を当てはめて結論を導く考え方
いずれも結論を導くために使える思考法です。帰納法はある程度のサンプル(事例)数がないと使えませんが、新たなチャレンジを行う際に役立つ考え方です。一方、演繹法を使うには、あらかじめルールをたくさん知っておく必要があります。
ロジカルシンキングを磨くには、まず演繹法の知識を身につけ、徐々にビジネスシーンの中で帰納法を実践していくと良いでしょう。
クリティカルシンキング
クリティカルシンキング(critical thinking)は日本語では「批判的思考」と訳され、物事を先入観や既存の評価にとらわれずに中立的な立場で吟味し適切に疑うことを指します。厳密には、思考方法ではなく思考態度に当たります。
「過去にもずっとそう言われてきたから正しいはずだ」「専門家の意見だから間違っているはずがない」「これが常識だ」「チームメイトもみんな賛成しているから良い意見だ」といった思い込みによる誤った決断を避け、改革を行う際に役立ちます。
ロジカルシンキングには、時に「論理的には正しいがビジネスの観点からすると正しくない」結論を出すことがあるため、ロジカルシンキングで思考する際にクリティカルシンキングも活用すると良いでしょう。
デザイン思考
デザイン思考(design thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる思考のプロセスのことで、これをビジネス上の問題を解決するために活用しようというのがマネジメントにおけるデザイン思考の捉え方です。
最初にブレインストーミングによって可能なかぎり数多くのアイデアを出し、それをマインドマップなどによって集約していき最終的に一つに絞り込みます。
デザイン思考は特に、明確な定義のない問題の解決に有効だといわれています。問題自体も解決方法も不明瞭な状態の問題は扱いにくく、解決のためにはまず問題自体を定義しなくてはなりません。このフェーズに問題解決活動の大部分が取られます。
コーチングを身につける
コーチング(coaching)とは、対象者に成長や変化を促す促進的アプローチのことで部下やチームメイトを対象とするほか、自分自身を対象とした自己啓発としてのセルフコーチングもあります。
コーチングの特徴は、教えることではなく問いかけることで対象自身から答えを引き出す点にあります。コミュニケーションを通して対話を重ねながら、目標達成に必要なスキルや知識、考え方、行動が何であるかを導き出します。
マネージャーはコーチングを身につけると、課題解決や部下の育成に役立てることができます。
コーチングを受ける側は、新しい気づきを得たり視点が増えたり、考え方・行動の選択肢が増えるといったメリットがあります。
アンガーマネジメントを身につける
マネージャーは、組織の目的達成のために自組織に割り当てられたさまざまな経営資源をコントロールしながら組織を運営していくというミッションを背負っているので、決断やコミュニケーシに個人的な感情を挟むことは許されません。
プライベートでの出来事や体調に起因するマイナス感情をマネジメントの場に持ち込まないことはもちろん、機嫌が良い時だけ本来なら注意すべき事柄を見逃すこともNGです。
また、業務の中でトラブルなどが発生した際も感情を一定に保ちながら冷静に対処する必要があります。
さまざまな感情のなかでもマネジメントの場に持ち込むと悪影響が大きいのが「怒り」の感情です。アンガーマネジメントを身につければ、これをコントロールできるようになります。
アンガーマネジメントはもともと、1970年代の米国で軽犯罪者のための矯正プログラムとして開発されました。これを職場や家庭などで応用し怒りを爆発させたり押さえこんだりすることなく、うまく伝えようというのが現代のアンガーマネジメントです。
感情任せに部下を怒鳴るのは大問題ですが、パワハラを恐れて叱れないというのもまた問題です。適切に怒りを表現することは、誰でも訓練によってある程度習得できるといいます。
たとえば、「突破的に怒りを感じたら6秒数える」「怒りを感じたらその度合いがどれくらいかを10段階で評価する」などのテクニックがあります。個々の性格によっても怒りを感じやすいシーンが変わってくるため、自分のタイプを知ることも大切です。
マネジメントスキル向上に役立つ資格
マネジメントのスキルを向上したいが自己流ではなく体系的に身につけたいという場合、もしくは不足しているスキルの方が多いという場合は、マネジメント関連の資格取得をおすすめします。取得のための学習の過程で知識を整理しながら体系的にスキルを身につけることができるからです。
ここでは、マネジメントスキル向上に役立つ資格を四つご紹介します。
ビジネスマネージメント認定試験
ビジネスマネージメント認定試験は、日本生活環境支援協会が主催しており、主に心理トレーニング法(win-winの関係についての理解、自立するための心理トレーニング方法、人間関係を良好に保つ方法など)にフォーカスした認定試験となっています。年6回実施。
・受験資格:特になし
・受験料:1万円(税込)
・受験申請:インターネットからの申し込み
・受験方法:在宅受験
・合格基準:70%以上の評価
・公式サイト:https://www.nihonsupport.org/syumishikaku/mentalcaremanagement/
ビジネスマネジャー検定
ビジネスマネジャー検定は、東京商工会議所が主催しておりマネジャーとして活躍が期待されるビジネスパーソンに対し、その土台づくりのサポートを目的とし「あらゆるマネジャーが共通して身につけておくべき重要な基礎知識」を効率的に習得する機会として提供されています。年2回実施。
・受験資格:特になし
・受験料:6,600円(税込)
・受験申請:インターネットもしくは電話からの申し込み
・受験方法:会場受験(マークシート方式による選択問題)
・合格基準:70点以上(100点満点)
・公式サイト:https://www.kentei.org/bijimane/
PMP資格
PMP資格は、米国に本部を持つ非営利団体PMI(Project Management Institute)が主催しており、日本支部もありますが試験は基本的に英語で行われます(※日本語の補助記述による受験も可能)。
資格取得後も3年ごとに更新がありますが、海外では知名度のある資格なので外資系企業に勤める場合は特にマネジメントの専門性をアピールできる資格となるでしょう。
・受験資格:プロジェクトマネジメント経験(高校卒業者で60ヵ月間、大学卒業者で36ヵ月間)と35時間の公式なプロジェクトマネジメントの研修の受講
・受験料:メンバー:405米ドル、非会員:555米ドル
・受験申請:インターネットからの申し込み
・受験方法:会場受験
・合格基準:非公表(過去は正答率60%以上)
・公式サイト:https://www.pmi-japan.org/pmp_license/
論理的思考士(旧:論理的思考インストラクター)
論理的思考士は、日本インストラクター技術協会が主催し、問題解決のために必要な多角的な視点や論理的な思考力を有し実行に移せること、さまざまなシーンで的確な思考構築の手法を選べること、ロジカルな視点からアドバイスできる能力を有することを証明する資格です。年6回実施。
・受験資格:特になし
・受験料:1万円(税込)
・受験申請:インターネットからの申し込み
・受験方法:在宅受験
・合格基準:70%以上の評価
・公式サイト:https://www.jpinstructor.org/shikaku/ronritekishikou/
まとめ
マネジメントスキルは、ただ部下に指示を出し自分の仕事をこなすだけでは身につくものではありません。
上でご紹介したスキルと自身のスキルを照らし合わせ、不足しているスキルについては最適なトレーニングを行い、マネジメントスキル向上に努めてみてはいかがでしょうか。