コーチングとは?その歴史と目的、効果を解説
日本のビジネスシーンにおいて、「コーチング」という言葉がよく聞かれるようになったのは1990年代頃からのこと。以来、企業での人材開発や自己啓発セミナーにおけるセルフコーチング、教育分野、はたまた家庭での育児まで、さまざまな場面で活用が広がりました。
現在では、「コーチング」が育成や能力開発の一手法として定着した感もあり、詳しい意味までは知らなくいまでも、その名前を聞いたことがないという人は少なくなってきました。ここで、改めてコーチングの基本について知り、自社でも取り入れてみませんか?
本コラムでは、コーチングの概要と歴史、目的や効果、資格についてご紹介いたします。
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コーチングとは
コーチング(coaching)とは、コーチが相手を教えることで成長を促すのではなく、コーチングを受ける側(クライアント)自身の考えや視点を引き出し、本人に気づかせるようなコミュニケーションを取ることで自発的な成長を促し、目標や自己実現を達成するという育成手法です。
「答えはその人(コーチングを受ける人)自身の中にある」という考え方に基づいて行われる点が大きな特徴です。
もとはスポーツ分野で使われてきた言葉で、日本では1990年代から2000年代にかけて広まりました。ビジネスにおけるコーチングは特に、「ビジネスコーチング」ともよばれます。
社員(部下)の個性を活かしながら主体性・自主性を高められ、社員自身の学習力自体がアップするので、自身で学習・成長し続けられるようになるといったことがコーチングを行うメリットです。
コーチングと似た意味の言葉には、ティーチングやカウンセリングがあります。違いについては、別記事でご紹介します。
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コーチングの歴史
コーチングはもともと、スポーツ分野で使われていた手法ですが、「コーチ」の由来は、中世ヨーロッパまでさかのぼり、快適なサスペンションの付いた大型馬車の産地であったハンガリーの「コチ」からきているといいます。500年もの間、「人を目的地まで連れていくための手段」の意味で使われていた「コチ」から、1830年に家庭教師を「コーチ」と呼ぶようになり、スポーツのインストラクターも「コーチ」とよばれるようになりました。
ビジネスコーチングの始まり
ビジネスにおけるコーチングは、1950年代に使われ始め、1980年頃に米国で広まりました。きっかけは、米国企業の給与体系が、それまでの職務旧から技能給へ変わったことで、管理職が部下のパフォーマンスを上げる必要に迫られたためだといわれています。
日本でのコーチングの広まり
日本では、1990年代から2000年代にかけてコーチングが浸透し、ビジネス分野以外に医療従事者向けの患者に対するコーチング、教師が生徒に展開するコーチングなど、さまざまな分野で広まり、書籍も多数出版されました。
1999年7月には「特定非営利活動法人 日本コーチ協会」が、2002年10月には「日本コーチ連盟」が、2008年9月には「一般社団法人国際コーチング連盟日本支部東京チャプター」が設立され、それぞれ日本におけるコーチングの啓蒙に努めています。
コーチングの目的
コーチングの目的とは何でしょうか?
ここでは、企業においてコーチングを実施する目的を、コーチングを受ける側とコーチする側、それぞれの視点で整理し、ご紹介します。
コーチングを受ける側の目的
コーチングを受ける側の目的は主に「モチベーションの向上」「主体的・自発的に行動できるようになること」の2つです。
モチベーションの向上
コーチングは、トップダウンによる指示や一方的に教えることとは違い、クライアント自身の中にある答えや考え、望みに気づきを与えるコミュニケーションを取ります。クライアントは、自身で気づいたことを元に自発的な行動を取るようになります。
人は、指示されたことを実行するよりも、自分で選択したことに対して高いモチベーションで行動できるため、モチベーションを高める目的でコーチングを受けることができます。
主体的・自発的に行動できるようになること
コーチングは、コーチがクライアントに質問をしながら、「現状」「目指すゴール」「課題」「ゴールへ向けたロードマップ」といったことを引き出し、確認していくため、クライアント自身が決めた内容・手順で行動を起こすことになります。
こうした経験を繰り返すことで、クライアント自身に自主的な行動が身に付き、主体性を高める効果が狙えます。
コーチングの実施方法については、「コーチングの効果的な行い方と考慮すべきポイント」でご紹介いたします。
コーチ側の目的
一方、コーチングを行う側自身にとっての目的は「マネジメント力の向上」です。
マネジメント力の向上
マネジメント職の方がコーチングのスキルを身に付けることにより、部下の育成が行いやすくなります。
コーチングでの育成には、部下自身の個性を活かし、自主性を尊重しながら育成でき、部下が自力で学んで成長する正のスパイラルを作り出せるといったメリットがあるからです。
また、マネージャーは、コーチングを通して、部下との信頼関係を育みながら、部下の考え方や価値観、知識レベル・スキル、キャリアの志向などを把握することができるため、普段のコミュニケーションも噛み合うようになり、業務の割り振りも適切に行えるようになります。
マネージャーがコーチングのスキルを身に付け、コーチングを実施することで、部下に対するマネジメント力が向上するといえるでしょう。
コーチングの効果
コーチングを受けるとどのような効果があるのでしょうか?
ここでは、コーチングを受けることで得られる効果を5つにまとめました。
考えがまとまり、頭の中を整理できる
コーチからのさまざまな質問に答える中で、クライアント自身は頭の中で自問自答を行い、考えを整理しまとめる作業を繰り返します。
ぼんやりと考えていたこと、把握しているつもりで詳細までは掴めていなかったこと、自分でも何となく気づいていたが目をそらしていた問題などが、言葉にすることではっきりと認識できるようになります。
こんがらかっていた頭の中が整理でき、考えをまめることができます。
気づきを得られたり、発想が広がったりする
コーチングでは、さまざまな質問により、自分の中に眠っていた本当の希望や考えを引き出されたり、価値観などを再確認させられたりするため、たくさんの「気づき」を得ることができます。
また、コーチングを受けずに、自分だけで考えて解決しようとする場合、あくまでも自分自身の視点でしか物事を捉えることができません。そのため、うまく解決策を導き出せることもありますが、行き詰まってしまうことも多いでしょう。
一方、コーチングを受けると、コーチのスキルが高いほど「発想を広げる」ための問いを数多く投げかけられるため、自分の中にはなかった視点を持てるようになり、課題を多角的に捉えられるようになります。
では、営業のDXにおいて具体的になすべきこととは何でしょうか?
本コラムでは、「リモートによる商談、顧客対応」「課題の抽出」「ツールや仕組みの導入」の3点をご提案します。
目的が明確になる
コーチングを受ける前から、もともとクライアント自身が「目標」や「やりたいこと」「希望」などを明確に認識している場合もあるでしょう。ただ、それらを「ゴール」と思い込んでいるだけで、もしかしたら、その先に本当の「ゴール(目的)」があり、それを把握できていない可能性があります。
たとえば、「部署内のチームワークを強める」ことを目標にしていたとします。本当は、その向こうに「業務を充実した時間にして自己実現したいし、同僚にも自己実現してもらいたい」という本当の希望があった場合、単にチームワークを強めるような施策を実施しても達成感を得られないかもしれません。
コーチングによって、心の奥深くにある本当に叶えたい目的を明確にできます。
具体的な行動につながる
前項で明確にした本当の目的や希望が明らかになれば、具体的に何をすれば良いかも見えてきます。
コーチングを進める過程で、目的を達成するためのロードマップを作ることになり、最終目標に対する中間目標が立ちます。これを達成するための日々の行動まで落とし込み、目標を細分化することで「今、何をしたら良いのか」が明確になり、具体的な行動が取れるようになります。
感情のコントロールにつながる
コーチングでは、コーチからの質問に答えながら、自身の抱える課題や問題、悩みを明確にしていきますが、その際、不安や心配、恐怖といった負の感情も吐き出すことになり、心の負担を多少なりとも軽くできます。自分自身の負の感情に気づくことも大切です。
これは、どちらかというとカウンセリングに近い要素で、場合によってはコーチングだけでなくカウンセリングにつなげる必要もあるでしょう。
コーチングに関連する資格
コーチ側が本格的にコーチングのスキルを身に付け、高めるには資格取得が一つのステップになるでしょう。
ここでは、コーチングに関する4つの主な資格をご紹介いたします。
一般社団法国際コーチ連盟(ICF)認定コーチ資格
日本在住の外国人コーチをサポートする任意団体として2008年に任意団体として設立されたICFジャパンが認定する資格です。
レベルや出願条件によって「ACC(アソシエイト・サーティファイド・コーチ)」「PCC(プロフェショナル・サーティファイド・コーチ)」「MCC(マスター認定コーチ)」の3つの資格が用意されており、認定されれば世界140ヵ国の加盟国で通用する国際的な資格となります。
認定の難易度は高めで、一番、条件のゆるいACCで、トレーニング時間60時間以上・コーチングの経験時間100時間以上が求められます。
プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)
前項の「国際コーチ連盟(ICF)」が認定したプログラムを提供している「CTI(CO-ACTIVE TRAINING INSTITUTE)ジャパン」の認定資格です。
受験資格を得るには、5つのコアコース(3日間)の後、6ヵ月間の上級コースを修了し、筆記試験と実技試験に合格する必要があります。
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格
文部科学省が管轄する「一般財団法人生涯学習開発財団」が認定する資格で、こちらも3つの種類があり、「認定コーチ」「認定プロフェッショナルコーチ」「認定マスターコーチ」の順に難易度が上がります。資格の有効期限はいずれも2年間です。
一番、難易度の低い「認定コーチ」の認定条件は以下の通りです。
- コーチ・エィ アカデミアの01~08を受講。または、DCDクラスを全て履修
- 1on1コーチを1クール(10セッション)受けている
- 5名以上へのコーチング実践経験
- 新規参入や代替品の脅威
日本コーチ連盟認定コーチ
コーチングの普及・発展を目的とした団体である「日本コーチ連盟」の認定資格で、コーチング関連資格では唯一、検定試験を実施しています。
コーチとして活躍するための「コーチング資格(コーチング・ファシリテータ、コーチ、プロフェッショナル・コーチの3種)」のほか、コーチング技能を教授するインストラクターの資格(インストラクター資格)も認定しています。
まとめ
コーチングの歴史や効果など、基本的な情報をまとめてご紹介しました。
コーチングは、ほかの教育手法に比べ、クライアント(社員)の自主性や個性、モチベーションを向上するのに適した方法です。